いじめ「られた」のを「母親」の責任にする謎理論について
いじめが起きた時、親の責任を問う人もいます。
親は子どもの全てをコントロールできるわけではないのですが、
確かに、あまりにも荒んだ家庭で子どもが育った場合、非行少年・少女になり、いじめっ子になることもあるでしょう。
しかし、世の中には、子どもがいじめ「られた」のを「母親」の責任にする理論もあるようです。
というわけで、今回は、
- この、めちゃくちゃな理論の紹介
- 「いじめ」についての議論
を良い感じの文字数でしようと思います。
1. 愛着理論と母親
愛着理論にはいろんなバリエーションがあるのですが、基本的には、
- 子どもの不幸の原因は親が作る
- 親子関係(特に母子関係)があらゆる人間関係のもとになる
と考えます。
そして、この「不幸」の中に「いじめられること」も含まれます。
学校でいじめの対象になりやすい子は、父性の質であるがんばり方や、対人関係の距離の保ち方、集団の中で自己主張する仕方(言い換えれば、闘い方)を知らないことが多い。その原因をさかのぼっていくと、母親からもらうべき安心を十分に獲得していないことに行き着く。(高橋和巳『「母と子」という病』)
(赤文字は引用者)
「原因をさかのぼっていくと、母親からもらうべき安心を十分に獲得していないことに行き着く」というのは、かなりのパワーワードで、
- 「母親からもらうべき安心」という、あやふやな概念
- 「十分に」とは、どの程度かわからない
にもかかわらず、母親は一方的に悪者にされてしまうのです。
なお、
高橋氏の主張に科学的根拠はありません。まあ、精神論というやつですね。
2. いじめについて
「いじめ」についても考えてみましょう。
2-1. いじめは複雑な問題
いじめは「いじめっ子」と「いじめられっ子」の問題で、普通は「いじめっ子」の方に問題があったと考えます。
「いじめられっ子」の方が気が弱かったり、立場が弱かったりして意見がなかなか言えない場合があるので、より配慮せねばならないからです。
さらに、
「周りの子」や「クラスの雰囲気」も関わってくるし、「先生たち」と生徒の関係性も重要です。
つまり、いろいろな要素が関わってくるわけですね。
しかし、愛着理論ではそのような様々な要素は考慮されず、
「母親さえしっかりすれば、いじめられないし、大丈夫っしょ」的な、かなり単純な考え方をするのです。
2-2. 愛着理論の難点
難しい言い方をすれば、
愛着理論では、あらゆる人間関係が「親子関係(特に母子関係)」に還元されます。
私たちは、
- 仲の良い友人との関係
- 嫌いな知人との関係
- 恋人との関係
- ご近所づきあい
など、いろんな人間関係の中で生活していますが、高橋氏の主張によれば、
母子関係が上手くいっていなければ、全ての人間関係は上手くいきません。
これは、
世のお母さんたちだけではなく、実際に母子関係が上手くいかなかった人に対しても絶望を与える、とんでもない主張
だと思うのですがいかがでしょうか。
3. 最後に
今回は、高橋和巳氏による愛着理論の考え方を紹介しましたが、
岡田尊司氏も「母子関係が上手くいかなかった人は、いじめっ子にもいじめられっ子にもなりやすい」と考えているようです。
高橋氏と岡田氏と言えば、
ということなので、愛着理論自体に問題あるという気がします。
愛着理論と言えば、「母と子の絆の強さを描いた心温まる理論」と思われている節もありますが、
実際は、かなり問題のある思想だということも、是非知っておいてください。