どこからがネグレクトなのか | ネグレクトの基準について
[ネグレクト]とは 育児放棄のことで、その内容は大体想像がつくとは思いますが、
- ネグレクトのちゃんとした基準
- どこまでが頑張り過ぎない子育てで、どこからがネグレクトなのか
は、結構あいまいだと思います。
今回は、これらをMSDマニュアル(最も広く活用されている医学書)を通して考えていこうと思います。
1. ネグレクトは四種類ある
MSDマニュアルによると、
ネグレクトとは、子どもの身体的、情緒的、教育的、医学的な基本的ニーズを満たそうとしないこと(MSDマニュアル家庭版)
(赤文字は引用者)
「子どもの基本的なニーズ」とのことですが、子ども自身が要求してくるわけではありません。
要は、
「子どもの成長に必要なことは何か」「何がネグレクトか」は社会が決めているというわけですね。
それでは、それぞれ見ていきましょう。
1-1.身体的ネグレクトの基準
- 不十分な食事・衣類・居住環境しか提供しない
- 監督保護を怠る
1は目に見えて栄養が足りていなかったり、服がボロボロだったり、不衛生だったりする状態です。
2は「何がネグレクトかは社会によって異なる」ということの典型例だと言えます。
例えば、日本では「長時間車に子どもを置去りにして命の危険にさらす」など危険なものを想定しているのでしょうが、
アメリカでは「13歳未満の子どもを一人にさせないこと」が原則になっており、それを怠ると、身体的ネグレクトで通報されることもあるようです。
1-2. 情緒的ネグレクトの基準
- 無視や拒否をして愛情を与えない
- 他の子どもや大人と接する機会を無くす
ただし、MSDマニュアルは情緒的ネグレクトの被害として[反応性愛着障害]や[脱抑制型対人交流障害]を想定しているので、
よっぽど酷い育児放棄のみが情緒的ネグレクトに当たると思われます。
※反応性愛着障害と脱抑制型対人交流障害については、
agonarisannotou.hatenablog.com
※ちなみに、情緒的ネグレクトと心理的虐待は別です。
1-3. 教育的ネグレクトの基準
学校に入学させない出席させない、在宅教育をうけさせないこと
これもネグレクトに当たるというのは意外だったのではないでしょうか。
例えば、世界には学校に行けない子どもたちも多くいます(これは、別の意味で問題なのですが)
まあ、要するに、
「義務教育がある国では、親は子どもを学校に通わせる義務を怠るな」ということでしょう。
1-4. 医療ネグレクトの基準
怪我や身体的・精神的な病気の治療を受けさせないこと
他には、
- 虫歯の予防や治療を受けさせない
- 予防接種や健康診断をほとんど受けさせない
などもあります。
しかし、基本的には、他の種類のネグレクトに付随した要素という位置づけです。
例えば、
ネグレクトの徴候がすでにある家庭の養育状況を調べるために、予防接種に関するデータを児童相談所が調べる
など。
よって、あえて子どもに予防接種を受けさせていないからといって、ただちにネグレクトになるわけではありません。
※ただし、重大な病気の放置は死にも至ることがあるので注意せねばなりません。
2. 周りから気付きにくい?
以上が4種類のネグレクトの基準です。
反応性愛着障害や脱抑制型対人交流障害に子どもがなれば、情緒的ネグレクトだとわかるし、
目に見えて栄養が足りていなかったり、服がボロボロだったり、不衛生だったりすれば、身体的ネグレクトだと周りの人間もわかります。
それに比べ、
他のネグレクトは周りからは気づきにくいでしょうが、普通に子育てをしていれば該当はしないはずです。
3. アメリカの現状
さて、やはり問題なのは身体的ネグレクトの1つ「監督保護を怠る」でしょう。
アメリカで「13歳未満の子どもを一人にさせないこと」が原則になっているのは、おそらく子どもが犯罪に巻き込まれないためなのでしょうが、
今度は、
- 「ネグレクト親」のレッテルを貼られないか、親たちがピリピリする
- 逆に、子どもに過干渉になる
- 「ネグレクト親を通報してやろう」というネグレクト警察が増える
という弊害が出てきたようです。
いわば、窮屈な監視社会になってしまったわけですね。
これは「社会全体で子どもを育てる」ことのリスクとも言えるでしょう。